これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第1回*  (H23.11.24 UP) 研究医養成情報コーナートップページへ戻る
今回は東京大学大学院医学系研究科細胞情報学教室の柳田圭介さんです。
「まずはやってみよう!」

              
       東京大学大学院医学系研究科細胞情報学教室 柳田 圭介

清水教授と

 2001年入学の柳田圭介です。医学部5年終了時にPhD-MDコースに進学し、博士号取得後、細胞情報学教室(清水孝雄教授)で助教として研究・教育活動に励んでおります。研究者としても人間としても、まだまだヒヨコにもなっていないような私が過去を顧みるのも甚だ恐縮ですが、私が研究者になる道を如何に選んだかを振り返ることは、真剣に研究を志す医学生のみならず、「研究って楽しそうだな」くらいに考えている多くの医学生(私もその1人でした)にも参考になるかと思い、無分別を承知でこれまでの研究生活について振り返ることに致します。

“軽い気持ち”で研究開始
 晴れて大学入学、さっそく研究!といきたいところですが、大学1、2年時は高校から続けていたテニスに没頭。大学2年時には生化学の授業も始まり、同級生の約半数が“基礎研究者志望”であったと後に聞いていますが、私は明らかに残り半数の方でした。周りの優秀な仲間達が研究を志しているという事実に多少臆してしまった部分もあったかと思います。
 研究を開始したのは、大学3年時のフリークオーター(研究室配属)がきっかけでした。配属されたのが現在も所属する細胞情報学教室(清水孝雄教授)です。二週間の配属期間でしたが、その後も何度も清水教授がテニスに誘って下さって、せっかくの機会なので実験もやってみようという半ば“軽い気持ち”で実験をするようになりました。現秋田大学医学部教授の石井聡先生をはじめ、多くの諸先生、先輩方にご指導いただき、分子生物学のイロハを学びました。研究室は学年でも優秀で熱意のある人が通う場所というイメージが強く、当時の私にとっては実にハードルの高いものでした。しかしながら、教室の方々に温かく迎えていただき、あまりの居心地の良さに自然と居座るようになりました。学部の試験、実習が忙しくなれば、急に教室に顔を出さなくなったりもし、大変失礼な学生だったとは思いますが、たとえ半年ぶりに顔を出しても教室員の方々は温かく歓迎して下さりました。

 研究の魔力
 
教室に通い始めると、不思議に思うことがありました。
 「何故皆こんなに生き生きと仕事しているのだろうか」
 
実験自体が面白いのはわかるが、当然うまくいかないことも多いはず。思い切ってある先輩に聞いてみたところ、こう答えて下さりました。
 
「一度ハマると抜け出せなくなる面白さが研究にある」
 
正直答えになっていないと当時は思いましたが、2年ものんびりと続けてみると「これのことか」と思うようになりました。研究の魔力に取り憑かれてしまったのです。こうなると、次の結果が気になって仕方がなく、寝不足になろうとまた実験を始めてしまう。うまくいかないとがっかりするが、解決策を練って(もちろん指導いただいて)、また次の結果を楽しみにする。病院実習が始まっても寝る間を惜しんで実験しました。一日中研究活動されている研究員の方々を正直羨ましく思ったものです。この頃になりますと、周りの友人はほとんど臨床志望になりますので、「何故そんなにまでして研究をやるのか」と不思議がられました。当時の私には「楽しくて仕方がないから」としか答えられませんでした。いや、今でも同じ答えをします。正確に言うと、“楽しい”という感覚とはまた違うかもしれません。“魔力がある”というのが私にとっては的確な表現だと思います。

PhD-MDコースへ
 研究にハマった一方で、一生研究者としてやっていく覚悟もできませんでした。自分は研究に向いているのだろうか。研究しているとはいえ、本業の学部の勉強や実習の合間でやっていること。仕事というよりはむしろ部活のようなものです。それまでPhD-MDコース、つまり学部の途中で大学院に進学する特別コースは“研究を本気で考えている、覚悟のある学生向け”のコースと勝手に思い込んでおり、私のような“迷いのある”学生にとっては無縁と感じていました。しかしふとした瞬間に「迷いがあるからこそ、一度研究にどっぷり浸かって、それで判断してもよいのではないか」と思い、教室の先生方にもご賛同いただき、大学5年終了時にPhD-MDコースに進学しました。こんな甘い気持ちで進んでよいのかと不安にも思いましたが、面接時に正直にその思いをお伝えし、先生方もお許し下さったのだと思います。
 大学院時代はこれまでの制約から解放された喜びから、とにかく嬉々として実験しました。運が良かったこともあり、思わぬ発見をしたり、論文や学会で反響をいただく一方で、ネガティブデータが続くことや、論文化が遅れ先を越されることもありました。競争があれば、毎朝ラボに来てはドキドキしながら文献検索をして「まだ出てない」とほっと安堵し、眠れば夢もほぼ全て研究のこと。まさに四六時中、“頭も体も研究”のあっという間の4年間でした。ついぞ自分に研究は向いているかの判断はつかずじまいで卒業を迎えましたが、代わりに本気でこう思うようになりました。
 
「先のことはわからないが、どんな形でもよいから一生研究に携わりたい」

 「まずはやってみよう」
 PhD-MDコースに進み、そのまま研究職を続けているという奇異な立場上、多くの学部生から研究についての問い合わせがあります。「研究やりたいが、その前に何を勉強すればよいか」「研究の楽しさは何か」「やりたいテーマが決まらず研究室を選べない」などなど。私も当初同じように思ったものですが、今もなお言葉にしてお答えしにくいものだと考えております。代わりに、私の経験からこれだけは必ずお伝えしています。
 
「考えても始まらないから、まずはやってみよう!」
 
そんな甘い気持ちで研究に取り組ませるなとお叱りも受けそうですが、私にとって研究の魅力はどれだけ考えても悩んでもわかるものではありませんでした。体験した人にしかわからないものだと思っています。研究について悩むあまりに、一度も研究生活を体験せずに終わってしまうのでは本末転倒ではないでしょうか。

おわりに
 研究という職業に出会えたことに心から喜びを感じています。研究のない人生を想像するだけでぞっとするくらいであります。もちろん、今後も研究で生きていけるかどうかはわかりません。しかし、結果が知りたくてはやる気持ちを抑えられず次の実験を始めてしまう研究の魔力、さらには思いもよらない発見により文字通り「夜も眠れなくなる」ような興奮を知ってしまった以上、もう研究からは離れられません。
 最後になりましたが、研究の魅力に出会わせて下さり、温かく御指導いただきました清水孝雄教授、石井聡教授、また私のように“軽い気持ち”でも研究をスタートできる、研究を志す意思を尊重・成長させる環境作りに尽力して下さった諸先生、先輩方には感謝してもしきれません。この場をもって深く御礼申し上げます。